横島勝人先生インタビュー


2004年に産声を上げ、今年、設立10年目を迎える東京セラフィック・オーケストラ。

横島勝人先生には2010年以来、4回のサマーコンサートと3回の定期演奏会で、継続してタクトを振っていただいています。

セラフィックを見守っていただき、近年の当団の活動を語る上で欠かすことのできない横島先生に、お話をうかがいました。

 

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――最初に指揮をしていただいたのは、2010年のサマーコンサートです。 当時、当団は設立7年目で、至らないところも今以上にあったかと思いますが、いかがでしたか?

 

曲目は既に決まっていましたよね。中でもメンデルスゾーンの交響曲『スコットランド』は難しい曲なんだけれども、それでもやるというので、「いいよ」と。でも、音楽というのは、できる・できないで言うと、立派なオーケストラだって、全て完璧にはできないんです。逆に、ちゃんと弾いたら聴く人が感動するかといったら、そうとも限らない。だから、オーケストラの技術だとか人数だとか、そういうことは気になりませんでした。

ただ、最初、チューニングの際には時間通りに音を出さないとダメだよとか、セカンドバイオリンとビオラが刻むところにファーストヴァイオリンが乗るためにはセカンドとビオラがしっかり弾かなきゃいけないよとか、そういう基本的なことは言いましたし、打ち上げの席でも、ここはこうだったねという感想は、けっこう話した記憶があります。僕だけがセラフィックで指揮をするわけではないだろうから、他の方が来た時にも失礼がないようにするのも、自分の仕事かなと思っていたので。

皆さん、言った事を着実にクリアなさって、努力する姿勢が見られたのが、嬉しかったですね。

 

 

――定期演奏会としてはまず、ロッシーニ『セビリアの理髪師』序曲、ブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番、そしてベートーヴェンの交響曲第7番を2011年に振っていただきました。ベートーヴェンはその後、セラフィックで何度も演奏することとなります。

 

僕が指揮を頼まれた時、ベートーヴェンの交響曲を全部やったほうがいいよと言いました。

なぜなら、オーケストラの基本となる音楽は、ベートーヴェンだから。国語で古文、英語で文法を勉強するのと同じです。

例えば、ハイドンやモーツァルトの楽譜では、チェロとコントラバスは「BASSO」と書かれているだけで、まだ分かれていなかったし、ティンパニとトランペットも一緒の記載でした。ベートーヴェンの時代になって、コントラバスだけの特別な音が作られたり、ティンパニが独立した楽器として扱われたりしたんです。

また、それまでは雇い主のために書かれた曲が多かったのに対し、彼は自分の欲求に基づく芸術作品として作曲しました。

つまり彼の音楽には、その後の音楽のもとになる考え方、オーケストラの在り方が詰まっているので、原点に返れる曲としてベートーヴェンをやっておけば、その後、モーツァルトやハイドン、あるいはブラームスでもマーラーでもブルックナーでもリヒャルト・シュトラウスでもヒンデミットでも、良い音がするようになっていくというのが、僕の考えなんです。それで再びベートーヴェンをやると、また違うと思いますよ。

 

 

――色々なオーケストラを指導されている先生ですが、セラフィックの印象をお聞かせください。

 

雰囲気は、当初から今に至るまで、大きくは変わっていない気がします。

僕が普段、指導に行くオーケストラの中では若いほうですね。そのことに期待もするし、僕が色々な場所で感じた良いものは、伝えていきたいと考えています。

最近、練習場所も都内の同じところをほぼ確保できているから、環境的にも恵まれつつありますよね。

 

 

――継続して4年間振っていただく中で、変わったなと思われるところはありますか?

 

一つの演奏会に向けての、僕との最初の合わせでのレベルが上がってきました。これはとても大事なこと。

どこのオーケストラでも、最初の合奏までで80パーセントくらい決まってしまうんです。そこから本番までは、もう20パーセント程度しか伸びない。

だから、僕と合わせる前の練習でレベルを高めていないと、良い仕上がりにはならないのですが、セラフィックも回を重ねる毎に、指揮者を迎える準備ができるようになってきました。

僕は初めから本番に近いテンポで振り、目指しているものを見せるので、皆さんはそれについてこなければならないわけですが、例えば最初に通した時はうまく合わなくても、次に返した時にはちゃんと合っていますよね。テンポを感知する力や様々な事態に対応する力がついてきているのだと思います。

オーケストラで重要なのは、一人一人がどう弾くかではなくて、オーケストラとしてのアンテナを高く張り、何かあった時にパッとまとまる力があるかどうかですから。指揮者がいてコンサートマスターがいて……という、オーケストラの連携の仕組みを皆さんが分かってきたというのも、あるでしょう。

 

 

――今後の課題について、忌憚のないご意見をいただけますでしょうか。例えば、指揮者への食らいつき方が足りないとか、そういったご不満は……?

 

変な話、ないですよ。音楽というのは積み重ねですから、いきなり変えようとせず、前回の合奏を下回らない努力を、続けて行けばいいのではないでしょうか。

それに、もしも集中させない棒を振っているとしたら、オーケストラの責任ではなく指揮者の責任。こちらの指導が良ければ皆さんも楽しめるわけだから、いつもそういう状態でいたいなあと思います。そこはこちらがやりますから、とにかく皆さんは、毎回の練習にできるだけ出席してくれれば。音楽を作る立場からすると、本番に近い人数で練習したいわけです。

実際、プロは本番と同じ状態で3日間、朝昼朝昼……と練習し、あとはゲネプロと本番で、かたちにするんです。本番と同条件でせめて3回、練習したいですね。同じピアニッシモでも一人で弾くのと三人では全然違うというふうに、人がいることによって鳴る音が変わるのが、オーケストラの醍醐味ですから。

 

 

――確かに、団員それぞれが一つにまとまって音楽を作り上げることができた時の喜びは、何にも勝ります。

 

オーケストラって、物がやっていれば楽なんだけれど、人がやっていることだから、それぞれの弾き方にも人間性が出るし、技術も含め、出てくる音にはその人の気持ちが表れます。 

全員が機械的に同じ音・音量だったら、つまらないでしょう?

だからこそ、難しいし、悩むし、楽しいし、悲しいし、面白いんですよね。

 

――今後も私達ならではの音楽を目指し、精進していきます。ありがとうございました。

 

 

(2014.2.4.都内某所にて)