永峰高志先生インタビュー


サマーコンサート2024でタクトを振っていただく永峰高志さんにお話を伺いました。ヴァイオリニストとしてはもちろん、指揮者・指導者としてもご活躍されている永峰先生に、演奏曲に対する想いをN響時代のエピソードを交えてお話しいただきました。

(2024年5月25日練習後にインタビューをしたものです)

 

 

――東京セラフィックオーケストラ(以下、当団と記載します)とは、これまでリハーサル(合奏練習)で何回かご指導いただいておりましたが、本番でご一緒させていただくのは今回が初めてになります。当団の印象を教えてください。

 

まず、演奏に対して熱心な印象を持っています。そして、団員の年齢層が幅広いというところが良いなと思います。

 

 

――(プロの楽団だけではなく)多くのアマチュアオーケストラの指導にも取り組んでいらっしゃる永峰さんですが、アマチュアを指導される際、特に心掛けていらっしゃることはありますか?

 

学生オケ、社会人オケ、そしてプロと様々な団体の指導・指揮を行っていますが、アマチュアにもプロにも同じ事を言っています。アマチュアだからといって特段意識を変えることはしていません。

皆さんお仕事等で楽譜をさらう時間が充分取れない中、本当に真摯に取り組んでいらっしゃると思います。

 

 

――今回のプログラムであるドヴォルザーク交響曲第8番、ベートーヴェン交響曲第2番について、思い出やエピソードはありますか?また、聴きどころも教えてください。

 

ドヴォルザークは渡米の前後で作風の違いはありますが、優れたメロディーメーカーだと思います。かつて、ウォークマンのコマーシャルでシンフォニー8番の第3楽章が流れていて、「いつかやりたい」と思っていたら、大学3年生の時に演奏する機会に恵まれました。

その後、N響(NHK交響楽団)では数多く演奏してきましたが、特にノイマンとの演奏が思い出深く、今でも当時のサウンドが耳に残っています。

ベートーヴェンのシンフォニー2番は渋くて地味な曲と思われがちですが、全く違います。あの「第9」の有名なモチーフが冒頭から出てくるなど、色んなエッセンスが詰まっています。ベートーヴェン自身がこれまでどの作曲家もやらなかった斬新なことをやりたいと模索していた時期であり、そうした熱い想いや姿勢が伝わってくる曲です。N響時代、名だたる巨匠の指揮でこの曲の演奏を経験しましたが、やはりサヴァリッシュとの演奏が印象的でした。

 

 

――ヴァイオリン奏者に加えて指揮者としての活動も始めることとなったきっかけを教えてください。

 

学校で弦楽の指導をすることになったのがきっかけです。アマチュアオーケストラでも弦分奏を指導していましたが、そのうち全体合奏も見て欲しいと言われるようになり、今に至ります。

 

 

――これまでに、先生が特に影響を受けた指揮者についてお話を伺いたいです。

 

N響では本当に多くの指揮者と出会いました。

現在はグローバル化が進み、指揮者もあらゆる国・ジャンル問わず、どんな曲でも振ることができる(指揮をできる)ことが求められていますが、例えば、ホルスト・シュタインならワーグナー、オトマール・スイトナーならベートーヴェン、デュトワならラヴェル、スヴェトラーノフならチャイコフスキー、ノイマンならドヴォルザークというように、ひと昔前は指揮者それぞれの得意分野がありました。

演奏する中で出会った全ての指揮者から多くを学び、今の指揮の参考としています。

特に、ベートーヴェンをドイツ正統派の指揮者から勉強できたことは大きな財産になっています。

 

ワインを例にお話ししますと、今あるヨーロッパのワインは、実は変種で原種は病害により100年前に絶滅してしまいました。病害が起きる前の木が南米に移されていたことから、今のチリのワインの方が原種にあたるといえるでしょう。

つまり、我々日本人は、ドイツの正統派から学んだことを吸収することで、クラシック音楽界におけるチリワインのような存在になれると思っています。それは、プロ、アマチュア、学生問わずです。

 

ドイツから遠く離れた日本において、ドイツ正統派の音楽を再現できる…このことはかけがいのない事であって、日本人だからこそなし得る事だと思っています。

 

そういった意味で、私には30数年間N響で様々な指揮者から薫陶を受けてきたことを、次の世代の人たちに継承していく使命があると思っています。

もしかしたら、私がリハーサルでお話しする内容の全てをその場で理解することは難しいかもしれませんが、それで良いのです。皆さんが若い方に音楽を教える時に「そういえば、昔、あの指揮者があんなこと言っていたな」と思い出してもらえるとよいと思います。

私自身、30数年前に習ったことを今ようやく消化できたということは幾らでもあります。今度は私が今まで習ってきたことをお伝えする番であり、そうした機会をいただけていることを嬉しく思います。 

 

――今後の演奏活動について教えて下さい。

 

指揮活動では、在京オーケストラとのブルックナーの演奏を予定しています。直近では、N響のOB・OGオケの指揮もあります。弦楽器・ピアノ・打楽器という編成で、映画音楽やディズニー音楽などを演奏する予定です。

ヴァイオリン奏者としては、幾つかのオケでゲストコンサートマスターとして演奏したり、リサイタルや室内楽の演奏活動も行う予定です。

 

 

――最後に、演奏会に足をお運びくださるお客様にメッセージをお願いします。

 

まず、クラシック音楽は敷居が高くないことを感じて欲しいです。コンサートホールの空間を共有して、我々の操縦する同じ船に乗って一緒に旅を楽しんでいただければ嬉しいです。

先日、ある大御所歌手のステージに伴奏者として出演しましたが、客席との一体感が物凄かった体験をしました。我々クラシック界も見習わないといけないと思っていて、敷居が高いと思わせる演奏をしてはいけないと常に心がけています。

一緒に音楽を楽しんでいただき、我々演奏者を応援していただけると嬉しく思います。

 

 

――本日はお忙しい中、貴重なお話をお聞かせいただき、誠にありがとうございました。

 

 

 

(インタビュアー Ob.笹原俊一)